校長室より
2026/03/12
影がなくなる日 -春分の日におこること-
知り合いから、エアメール(外国からの手紙)が届きました。その手紙には、次のように「なぞなぞ」が書かれていたのです。「旅行先で撮った写真を1枚だけ同封します! 澤田先生だから、私が今どこにいるのか分かりますよね。ヒントは、イタリア、アメリカ、オーストラリア、日本のどれかです!」
その写真には、噴水の公園、1本のペン、方位磁針、腕時計だけが写っていました。おそらくこの手紙を書くために、方位磁石をわざわざ旅行に持って行かれたのだと考えられます。「普通は観光名所の建物や風景を撮影するのになあ」と、ちょっとあきれましたが、この写真が自信作であることがうかがえました。
それでは写真を見ていきましょう。
まず、噴水公園を見ていきます。この噴水は、明るい屋外にある立派なものであり、豪華な彫刻が刻まれていました。次に、1本のペンを見ていきます。このペンは、方位磁針の中央に垂直に立てられていて、ペンの影が南側に伸びていました。最後に腕時計を見ていきます。時計の針は12時ちょうどを指していました。
生徒の皆さんは、もうお分かりではないでしょうか。
手紙がエアメールであったことや、屋外の噴水の豪華な彫刻などから考えて、日本ではないことは明らかです。そして、腕時計が示す時刻と、ペンの影ができていること、明るい屋外の噴水の様子などから考えて、真夜中ではなく正午であることがわかります。最後は、影の向きに着目して考えていきます。日本では、正午の太陽が真南にくるため、影は必ず北側にできるのですが、写真の影は南側に伸びています。このことから、正午の太陽が北にある国ということになります。
ところで、生徒の皆さんは、3年生の理科の授業で、「正午の太陽は真南にくる。このことを『南中』という」と学びます。しかし、この説明では不十分なのです。正しくは、「日本(沖ノ鳥島を除く)のように北回帰線以北に位置する北半球の国では、1年を通して正午の太陽は真南にくる。このことを『南中』という」と書けばよいのです。
これとは反対に、南半球の南回帰線以南に位置する国では、1年を通して正午の太陽は南ではなく、北の空にあるのです。これら南半球の国では、太陽が「南中」するではなく、「北中」する」ということになります。ただし、「北中」という用語は存在しません。世界の国々では「正中」という用語を用いており、日本とアメリカだけが「南中(southing)」という用語を用いていることも知っておくとよいと思います。
以上のことから、「なぞなぞ」の答えは、南半球に位置している「オーストラリア」となります。
オーストラリアの首都キャンベラは南回帰線以南に位置するので、1年を通して正午の太陽が北の空から地面を照らします。また、正午には建物の影が南側にできます。そのため、日本にいる感覚で、太陽の位置や建物の影の方角を基準にして街を散歩していると、方位を勘違いしてしまうので注意してください。
さて、3月20日(祝)は、春分の日です。春分の日は、昼夜の長さがほぼ同じになる日です。 また、太陽が真東から昇り、真西に沈む日でもあります。以上の現象は、北極点と南極点を除くと、世界中すべての国に当てはまります。つまり、イタリア、アメリカ、オーストラリアの国々でも、春分の日には、昼夜の長さがほぼ同じで、太陽が真東から昇り、真西に沈むのです。このようになるのは、地球の自転軸が太陽に対して垂直に近くなるため、地球全体が均等に照らされるからです。
さらに、春分の日には、赤道直下の国々では驚くようなことが起こります。それは、正午の太陽が真上にくることです、この日、赤道直下の国々では、太陽が真東から昇り、真上を通って、真西に沈むのです。そのため、午前は、真西へ伸びていた建物の影がだんだんと短くなっていき、正午に影がなくなります。そして午後は、真東へ向かって影がだんだん長くなっていくのです。
生徒の皆さんは、「影ふみ遊び」をしたことがありますか。「影ふみ遊び」は、太陽の光で地面に映った自分の影を、鬼にふまれないように逃げる屋外の鬼ごっこです。鬼は、直接身体に触れるのではなく、逃げる人の影をふむことで交代します。ただし、ふつうの鬼ごっこのように、タッチされたという感覚がないので、微妙に難しかったことを覚えています。この遊びは、春分の日の赤道直下の国々では、「お昼に影がなくなるので無理だなあ」と思います。
太陽の動きや影の様子もそれぞれの国で異なっています。このような国際感覚も身につけられるよう、よく考えていきたいと思います。
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2026/03/06
桜は一斉に咲く
3年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。式場に飾られた桜の壁画から皆さんの決意を感じました。春の訪れとともに咲く桜は、別れと新たな出会い、そして、旅立ちを彩る縁起のよい花です。桜はバラ科のサクラ属ですので、よく見ると花の形が野バラに似ていることに気がつくと思います。桜は、種類によって開花する時期が異なります。
皇子が丘公園の桜はちょうど今、満開を迎えています。この桜は、ハツミヨザクラ(初御代桜)という品種で、およそ180本が植えられているそうです。他の桜に先駆けて、早春の時期に花を咲かせることから、ハツミヨザクラと名づけられています。そのため、皇子が丘公園は、大津市で一番早くお花見ができる場所として知られています。
もう少し暖かくなってから、打出中学校の校庭で美しい花を咲かせるのは、ソメイヨシノ(染井吉野)という品種です。ソメイヨシノは、日本全国でよく見られます。ソメイヨシノが日本で最も愛され、全国に普及した理由は、圧倒的な花の美しさと、育てやすさに尽きます。
ソメイヨシノは、接ぎ木(つぎき)という方法で増やされています。接ぎ木の方法は、「10月27日に掲載した『サボテンの接ぎ木』と基本的には同じです。病気に強い品種の桜の台木に、ソメイヨシノの枝をつなげばよいのです。だから、打出中学校の桜の木を注意深く観察すると、上の方にはすべてソメイヨシノの花が咲いているのに、下の方から出ている枝には台木の花が咲いてしまっているものが見られます。
このように、公園や校庭に植えられている同じ品種の桜の木は、接ぎ木によって増やされています。そのため、全国のソメイヨシノはすべて同一の遺伝子を持っています。これと同様に、皇子が丘公園に植えられているハツミヨザクラも、すべて同一の遺伝子を持っています。このことから、皇子が丘公園に植えられている桜が一斉に開花したのです。なぜなら、人間に例えると、皇子が丘公園に植えられている桜の木々は「兄弟姉妹」の関係ではなく、すべて「私」なのです。遺伝的に同じなので、気温が同じなら咲くタイミングも散るタイミングも一緒です。
くり返しますが、全国のソメイヨシノはすべて接ぎ木で殖やされたものなので、同じ遺伝子を持っています。そのため、周囲の気温が同じであれば、背の高さや幹の太さなどに関係なく、一斉に開花するのです。したがって、気象庁が発表する「桜の開花予想」は、おもにソメイヨシノについての情報なので、滋賀県の「桜の開花予想」は、温暖な南部から寒冷な北部へと進んでいきます。
ところで、生徒の皆さんは、ソメイヨシノの名所といえば、どこを想像しますか。
おそらく、このあたりでは膳所城跡公園ではないでしょうか。膳所城跡公園はおよそ150本のソメイヨシノやヤマザクラが咲き誇る素晴らしい場所です。私も一度はお花見を経験したいと思い、友人と桜餅を携えて休日に出かけました。桜餅は、塩漬けの桜の葉でくるまれていて、いかにも「お花見」という感じです。桜餅の葉は、香りや殺菌、乾燥を防ぐなどの目的があり、葉を食べるか食べないかは、個人の自由です。葉の歯ごたえを楽しみ、葉の塩味であんこの甘みが引き立つので、まるごと食べる人が多いように思います。ところで、膳所城跡公園に着くと、私たちと同じように集まった人たちでいっぱいでした。桜の木の近くのよい場所がなかったので、湖岸に座って、松の木を見ながら桜餅を食べたのも楽しい思い出になっています。
そして、大津市のソメイヨシノの名所といえば、近江神宮や琵琶湖疏水、長等公園や三井寺など、数えればきりがありません。およそ1000本の桜が咲き誇る近江神宮、およそ140本の桜並木が川岸を彩る琵琶湖疏水、およそ900本の桜がある長等公園は、とても有名です。また、夜にライトアップされるところも多く、およそ1000本の夜桜が咲き誇る三井寺を訪れたときには、その幻想的な美しさにたいへん感動しました。参道に沿って桜並木を鑑賞して、とても幸せな気持ちになりました。
桜は、古くから豊作を祈願し、人の心をつなぐ存在だったそうです。花が散った後の葉桜は、来年の開花に向けて光合成をして栄養をたくわえるのです。満開の桜を見ると、新しいことの始まりの予感を感じます。卒業生の皆さんの進む道はそれぞれですが、夢と希望を持って力をたくわえ、未来で大活躍しているうれしいお知らせを心待ちにしています。
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2026/03/04
オーロラの凍るような思い出
私がとても尊敬している理科の先輩教員から、オーロラについての話を聞いたときのことです。「オーロラはすごいで! 雑誌の写真にオーロラが載っているけれど、実際に目で見るオーロラは全然違って、本当にすごいで! そのすごさは、なかなか伝わらないなあ…。例えば、そうやなあ。ひらひらしたカーテンの下に寝転がって、下からカーテンを見上げる感じ! カーテンのひらひらのように立体的で、オーロラは本当にすごいで! たくさんのカーテンが空一面につるされていて、空全部がオーロラのカーテンやったんや! しかもひらひらと本当に動いているんやで! 色も変わるんやで! 」
すぐに調べてみて分かったことは、オーロラは、光の絵ではなく、立体的に見えるそうです。とくに、カーテン状のオーロラが頭上に広がるときは、まるで光の柱が空から降り注いでいるような、強い立体感と奥行きを感じることができるそうです。しかも、オーロラは緑色が多いのですが、カーテン状のすその部分がピンク色に輝くなど、まるで生きているかのように劇的に色が変化するそうです。
調べれば調べるほど、一度はこの目で実際に見てみたいと思うようになり、どこへ行けばよいのかを探してみました。その結果、直下でオーロラを観察できるベストスポットは、カナダ、フィンランド、ノルウェーの観光地が有名でした。その中でも私がとくに行きたいなあと思ったのは、カナダのホワイトホースという観光地でした。そう思った理由は、次のようなキャッチフレーズがたいへん魅力的だったからです。
「天然温泉の露天風呂で、リラックスしながらオーロラを鑑賞することができます。」
海外旅行はハードルが高く、なかなか大変でしたが、ついに念願をかなえることができました。ところが、現地に到着してみると、オーロラはいつも出現しているのではないということでした。空が曇っていては見えませんし、晴れていていたとしても、オーロラが出現しているとは限らないそうです。私たちの前のツアーで参加している人たちは、今夜が最後で、3泊したけれどオーロラを見ることができないまま帰省しなくてはならなくなりました。また、私たちと同じツアーに参加している中にも、前回のツアーで見ることができなかったので、再チャレンジしている方もいました。オーロラが出現する時間は、夜10時〜深夜2時頃となっていて、深夜0時前後がピークを迎えるそうです。私は祈るような気持ちでそのときを待ちました。しかし、残念ながら初日と2日目の夜は、とうとうオーロラを見ることなく終わってしまいました。それでも、分かったことがあります。それは、露天風呂に入りながらオーロラを見ることなんて、不可能なのではないかということでした。
真冬の深夜の気温はマイナス30℃です。お風呂の湯温は42℃です。つまり、頭部はマイナス30℃で首から下は42℃という状態になります。生徒の皆さんは、この温度差にたえられますか? しばらくお湯につかっていると、目が痛くなってきました。瞬きをすると、眼球の表面が凍っていたようで、ぱきぱきと音がしました。頭部があまりにも寒くなったので、お湯の中に頭も沈めると、頭や顔が温められて最高に気持ちよかったです。ところが、事件はこの後に起こりました。生徒の皆さんはもうお分かりだと思いますが、髪の毛を決してぬらしてはいけなかったのです。頭部を水面から出すと、髪の毛に異変が起こりました。あっという間に髪の毛が真っ白に凍りついたのです。何やらごわごわするので、髪を触ると、ばきばきと髪の毛が取れてしまったのです。私はびっくりして、もう一度お湯の中に頭を沈めて、髪の毛を解凍したのです。そもそも、露天風呂の周囲は、湯気が立ちこめているので、夜空を見ることさえできませんでした。
このようなハプニングもありましたが、ついに3日目の夜にオーロラが出現しました。「オーロラが現れたぞ! 」という呼びかけを聞いて、すぐに防寒着を着て庭に飛び出すと、美しいオーロラが夜空に現れていたのです。すぐにデジタルカメラを構えて撮影を試みましたが、操作をしているうちに、低温障害により電源が入らなくなってしまいました。よく晴れていましたが、風が吹いているマイナス30℃の世界はとんでもないものでした。それでもオーロラは美しく、苦労してでも見る価値があると思いました。
さて、オーロラが出現するときには、一体何が起こっているのでしょうか。太陽表面で爆発がおこると、電気を帯びた粒子(プラズマ)が、太陽風となって地球に吹いてきます。この太陽風をまともに受けてしまうと、地球の大気が少しずつはぎとられ、最終的に空気が薄くなって、大気や水のない星になってしまうそうです。また、この粒子が直接地表に届くと致命的な影響を生き物に与えてしまうそうです。しかしながら、地球は磁場という強力なバリアがあり、この太陽風を防いでいます。しかし、一部の粒子は地球の磁場のはたらきで北極と南極の周辺へ引き寄せられ、上空で地球の大気と激しく衝突します。このときにオーロラができるのです。
オーロラが出現するときは、太陽風が地球に吹きつけたときです。そして、地球の磁場と大気に私たちが守られている証でもあります。
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2026/02/26
ブランドいちごは同じ味 -滋賀県いちご「みおしずく」-
打出中学校の夢づくりプロジェクトで、来月発売されるお菓子は、滋賀県のブランドいちご「みおしずく」を使った贅沢なマカロンです。この「みおしずく」は、滋賀県が5年の歳月をかけて開発し、令和5年にデビューしたオリジナルいちご品種だそうです。ブランドいちごの「かおり野」と「章姫(あきひめ)」を両親に持ち、他品種の10倍とも言われているほどの華やかなフローラルな香りが特徴です。酸味と甘みのバランスが絶品だと言われていますが、香りにこそ、すごさが感じられるいちごです。
さて、生徒の皆さんは、ブランドいちごのパックのどれを選んでも、同じような味がすることに疑問を感じたことはありませんか。大きさや形はちょっと違っていても、味の違いがほとんどないことが不思議だと思いませんか。
私の近所には、「みおしずく」をハウスで育てておられる農家がおられます。ハウスは常に施錠され、関係者以外は立ち入り禁止になっています。その理由は、「みおしずく」のいちご苗が、盗まれてしまわないように注意しなくてはならないからです。「みおしずく」のいちご苗を買おうとして、ホームセンターを探したり、ネットショップで探したりしても、手に入れることはできません。
実は、「みおしずく」のいちご苗は、滋賀県が開発して登録農家に供給されているのです。つまり、「みおしずく」の苗を購入できない理由は、品種登録されたばかりの希少な新品種であり、滋賀県がブランドを守るために、県外への流出をある程度制限しているためなのです。
これに対して、「みおしずく」の両親にあたる「かおり野」と「章姫」のいちご苗は、ホームセンターで手に入れることができます。なぜなら、「かおり野」は、いちごの病気に強いので、開発した三重県が許可を与えて積極的に普及を図っておられるからです。また、「章姫」については、法律による知的財産権の保護期間が過ぎたため、いちご苗が積極的に販売されるようになりました。
私の家では、「章姫」をプランターに植えて育てています。暖かくなってくると、親株から何本もつるが伸びて、それぞれが新しい芽(子株)をつくります。このつるはランナーとよばれていて、このランナーで増えることにより、親株とまったく同じ遺伝子を持った子株をつくるができるのです。昨年は、親株から何本もランナーが伸びて子株が生まれ、この子株からさらに何本ものランナーが伸びて孫株が生まれました。これらの孫株を株分けすることにより、今年はたくさんのイチゴ苗を育てることができるようになりました。
以上のことから考えて、生徒の皆さんは、ブランドいちごのパックのどれを選んでも、同じような味がする理由が、もうわかったのではないでしょうか。
いちごは、種子ではなく、親株から伸びるランナーから新しい子株を増やす方法が主流です。したがって、「みおしずく」のようなブランドいちごは、たった1株の優れた親株から、ランナーという方法で増やされたのです。このように、ランナーによって増やされた子株はどれも同じ遺伝子を持っているため、栽培条件が同じであれば味も同じになるのです。3年生の皆さんは、理科で「無性生殖」について学習しました。イチゴがランナーによって子孫を増やすのは「無性生殖」であり、すべての子孫が同じ遺伝子を持つことになるので、味も同じになるのです。
ところで、「みおしずく」という新品種を、どのようにして、滋賀県がつくりだしたのでしょうか。調べてみると、「かおり野」と、「章姫」を受粉させて種子をつくり、たくさんできた種子をまいて、約1,600個の株を育てたそうです。その中から、滋賀の気候に適していて、味や香りが優れたいちごができた株をたった一つだけ選び出し、その1株からランナーで増やして、同じ遺伝子を持つたくさんの株をつくりだしたそうです。
では、いちごの種子はどこにあるのでしょうか。実は、いちごの実の表面に見えるゴマのような小さな粒が本当の果実であり、そのなかに小さな種子が1粒ずつ入っています。いちごの実の赤い部分は、果実ではなく茎の先端がふくらんだものです。したがって、このゴマのような小さな粒を、ぬらした紙の上にまいておくと、2週間くらいで発芽します。大きくなるまでは時間はかかりますが、やがていちごを収穫できるようになります。種子から育てたものは、受粉してできたものなので、親株とは異なる遺伝子を持つことになります。そのため、親株と同じ味にはなりません。
「みおしずく」をつくっている農家が栽培を始められた年に「いいのができました」と、少しずつ近所に分けてくださいました。これまでにない美味しさに笑顔があふれました。「みおしずく」の名前は、全国から集まった約7,600件の中から滋賀県の中学2年生の案が採用されたそうです。
このような滋賀県の名産品を守り続けていきたいと思います。
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2026/02/19
打出浜は知られざる蜃気楼(しんきろう)を見るベストスポットです
蜃気楼(しんきろう)の名所といえば富山県魚津市が有名です。魚津は「蜃気楼のまち」とも呼ばれ、江戸時代以前から蜃気楼の名所として知られています。富山湾にゆらゆら浮かぶ幻影が異国の街のように見えるそうです。この幻想的な景色を一目見ようと、蜃気楼が出やすい時期にはたくさんの人で海岸がにぎわうそうです。そして、蜃気楼といえば、砂漠を旅する隊商の話が有名です。砂漠でとうとう飲み水が尽きてしまった隊商が、遠くの方にヤシの木が青々と繁る水場(オアシス)を見つけます。最後の力をふりしぼって近づくものの、オアシスにたどり着くことはなく、いつまでもその少し先に同じ景色が見える、というお話です。
以上のように、蜃気楼は、遠くの景色が浮き上がって見えたり、反対に沈んで見えたりする現象です。具体的には、遠くの景色が上に伸びて大きく見えたり、反転して空中に浮いているように見えたりします。また、反対に、景色の一部が消えて見えたりすることもあります。このように遠くの景色が複雑に変形して見えるのです。
ところで、生徒の皆さんは、蜃気楼が見えるベストスポットが、大津市打出浜であることを知っていましたか。春から初夏にかけてよく出現するので、愛好家の方から魚津を上回る観測スポットだといわれているほどです。
打出浜は、琵琶湖大橋が大きく変形するという蜃気楼を展望することができる特等席にあたります。そのため、インターネットで調べると、多くの愛好家の方が、変形した琵琶湖大橋の面白い写真をたくさん掲載されておられます。
それでは、どのような日に蜃気楼を見ることができるかを予測するために、蜃気楼の仕組みを考えてみたいと思います。つまり、蜃気楼は、光が屈折することによって出現するので、なぜ光が屈折するのかを考えればよいのです。
生徒の皆さんは、水と空気の境界で光が屈折することを理科で学んだと思います。同じように、空気とガラスの境界でも光が屈折するので、凸レンズのように光を集めることができることも学習しました。
このように、物質の境界で光が屈折してしまうのは、光のスピードが物質によって異なることに関係しています。実は、光が空気中を進むときとくらべると、水中やガラスの中を進むスピードの方が遅くなってしまうのです。例えば、私たちが空気中ではすいすいと速く走ることができるのに、水中ではなかなか速く走ることができないのに似ています。つまり、光も私たちと同じように、空気中では速く進むことができても、水中やガラスの中を進むことが苦手なのです。
このことから、光が空気中から水やガラスにななめに差しこむと、先に入った部分は遅くなり、まだ入っていない部分は速いまま進みます。この速さの差が、ねじれ(屈折)を生みます。砂浜と海の境界を車が走ることに例えると、砂浜を走る側のタイヤは速いまま進みますが、海の中を走る側のタイヤは水に邪魔されて速く走ることができなくなって、車の進行方向が海の方に強制的に曲げられて(屈折)しまうことと同じです。
そして、光が最も速く進むことができるのは、宇宙空間のように空気がないところです。つまり、空気が薄いところほど、邪魔するものがなくなるので、より速く進むことができるのです。このことから、同じ空気中であっても、空気が薄いところは速く、空気が濃いところは遅くなり、薄い空気と濃い空気の境界でも光の屈折が起こるのです。このようにして、薄い空気と濃い空気の境界で光が屈折することにより、蜃気楼ができるのです。
春先は琵琶湖の水温がとても低いので、湖面の空気は冷やされることで縮み、かなり濃くなっています。ここに春先の暖かい空気が流れこむと、下が濃く上が薄い空気の2層ができるため、琵琶湖大橋からとどく光が山のような形に屈折しています。その結果、琵琶湖大橋が上に伸びて大きく見えたり、反転して空中に浮いているように見えたりして、じっと観察していると、ゆっくりと見え方が変化します。このような仕組みの蜃気楼は、春先に発生するめずらしいものです。
反対に、琵琶湖の水が温かい間は、湖面の空気が温められて膨らんで薄くなっています。ここに山から冷たい空気が流れこむと、下が薄く上が濃い空気の2層ができるため、光が谷のような形に屈折してしまいます。その結果、琵琶湖大橋の一部が消えたような蜃気楼が出現します。このような蜃気楼は、よく発生するそうなので、琵琶湖大橋を注意して見ているとよいと思います。真夏のアスファルトに水たまりがあるように見える「逃げ水」 も同じ仕組みで出現しています。
ところで、長浜市の湖北野鳥センターの植田所員に興味深いお話を聞くことができました。それは、春先に野鳥の観察をしているときに、湖北野鳥センターに設置してある望遠鏡で、琵琶湖大橋が見えたというお話です。一緒に聞いている方は、「望遠鏡で見たのだから当たり前だろう」と、気にもとめておられませんでしたが、湖北野鳥センターから琵琶湖大橋が見えたことが大事件なのです。
琵琶湖大橋の最高部は湖面から約27mの高さがありますが、地球が丸いことによって、19kmより遠い場所では、琵琶湖大橋が水平線の下にかくれてしまうのです。湖北野鳥センターから琵琶湖大橋までは42kmも離れているので、普通なら見えるはずがないのです。
生徒の皆さんは、なぜ琵琶湖大橋が見えたのか、もうお分かりだと思います。琵琶湖大橋が浮かび上がって見えるような春先の蜃気楼が出現していたのです。
さて、昨年度の打出中学校の夢づくりプロジェクトでは、「打出八景」を全校生徒で探し出して決定しました。今回の「打出浜の蜃気楼」のような特別な「打出 新 八景」が集まれば楽しそうです。
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2026/02/13
水芭蕉(ミズバショウ)に似ている座禅草(ザゼンソウ)が見頃を迎えます
座禅草最中(ザゼンソウもなか)という和菓子があります。この和菓子は、冬の妖精と呼ばれる座禅草をモチーフにした最中(もなか)です。この和菓子は、座禅草の形をした最中の中に、栗入りの甘いあんこがたっぷりつめられていて、見た目も座禅草にそっくりにつくられています。滋賀県高島市今津町の和菓子店が共同で企画しているお土産品なので、お店ごとの味は少しずつ違いますが、熱いお茶と一緒にいただくと絶品です。
この座禅草の花がそろそろ見頃を迎えていて、少しずつ観光客が増えてきています。写真は座禅草の現在の様子です。3月に入るともっと大きく生長するので、さらに見ごたえがあると思います。高島市今津町の座禅草は、あたり一面に生えていて、湿地に設置された木道を歩きながら見学することができます。この「座禅草群生地」は、JR近江今津駅から小浜行のバスに乗って、「座禅草前」というバス停で下車してから、歩いてすぐのところにあります。
さて、生徒の皆さんは、この花が座禅草とよばれる理由を想像することができますか。座禅草の花の写真を見ると、その理由にすぐに気づくのではないでしょうか。実は、紫色の苞(ほう)につつまれた黄色の花の姿が、お坊さんが座禅を組んでいる姿にそっくりなことから、座禅草と名づけられているのです。
そして、この座禅草は、水芭蕉(ミズバショウ)にとてもよく似ています。「夏の思い出」という有名な歌があるので、生徒の皆さんは、水芭蕉のことはよく知っているのではないでしょうか。
「♪ 夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空 (中略) 水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている 水のほとり ♪」
この水芭蕉が白色の苞(ほう)が黄色い花をつつんでいるのに対して、座禅草は紫色の苞が黄色い花をつつんでいるという部分が異なります。そして、それ以外はほとんど、同じような形をしています。なぜなら、両方ともサトイモのなかまだからです。どちらも早春に開花する春の代表的な草花として有名で、花を咲かせた後に、サトイモのような大きな葉を広げる植物です。
また、高島市今津町に生育している座禅草は、花の形が面白いことに加えて、もう一つの大きな価値を持っています。座禅草は2万年前の氷河時代の生き残りの植物なので、寒くて雪深い湿地でしか生育することができません。したがって、日本中を探しても、高島市今津町よりも南の地域には、座禅草は発見されていないのです。つまり、京都や大阪、四国や九州の人が座禅草を見てみたいと思ったら、一番近いのは高島市今津町の「座禅草群生地」になるのです。
ところで、「大発見をしました! 私は『座禅草群生地』のとなりの住宅地の周辺にたくさんの座禅草が生えていることを発見しました!」という連絡が私のところに入ることがたまにあります。なぜ、私のところに、そのような連絡が入るのかというと、「昔からここに生えていたけれど、この座禅草という植物は、たいへんめずらしいものである」ということを、最初に報告したのが、中学生の頃の私たちだからです。だからその方には、とても悲しい気持ちで、次のように説明しています。
「私たちが中学生の頃には、座禅草が付近一帯に生えていて、すごく見ごたえがありました。私たちの報告をきっかけにして、当時の大人がその価値に気づく前に、住宅地の造成工事が進んでしまい、今ではもとの何百分の1の面積にしか残されてないのです。『座禅草群生地』は、座禅草の価値に気づいた地元の方々の努力によって、かろうじて残すことができた一部分です。だから、住宅地の周辺に座禅草が生えていることは、不思議なことでも大発見でもありません。」
なぜ、高島市今津町のまちのど真ん中に、座禅草が2万年も生き続けることができたのでしょうか。調べてみると、この付近一帯は、昔から冷たい湧き水がこんこんとわきだしています。その湧き水は、広大なあいば野を源流としているので、枯れることがありません。湧き水によって、畑にして作物を植えても根が浮き上がり、水田にしても排水できないので稲刈りができなかったのです。だから、農地にできずにずっと放置されており、座禅草にとっては天国のような場所だといえるのです。
さらに、高島市今津町には多くの積雪があることも座禅草にとっては天国です。座禅草は、根にたくわえたデンプンを使い、花を咲かせるときに20℃〜25℃程度に発熱します。これにより、雪の中でもその暖かさで、昆虫を引き寄せて受粉することができます。このような仕組みで、他の植物よりもいち早く花を咲かせて種子をつくり、付近一帯を埋めつくすように増えることができるのです。
身の回りには、当たり前だと見過ごしているものの中に、かけがえのない価値を持っているものがたくさんあるように思います。見ようとしていないことで失ってしまうことがないようにしていきたいと思っています。
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2026/02/06
寒さを覚えさせないと発芽しない種子
生徒の皆さんは、パイナップルの種子を見たことがありますか。わが家のブームになったことなのですが、パイナップルの実の皮に近い部分に、ゴマのような形の黒っぽい種子を見つけることができます。そんなに多くはふくまれていないので、意識して探さないと見逃してしまいます。見つけた種子をよく洗ってから、水で湿らせたキッチンペーパーではさんで、暖かい日陰に置いておくと発芽させることができます。ただし、この方法では生長に時間がかかるので、実をならせるのに3年以上かかるそうです。
パイナップルと同じように、とくに南国産の植物の種子は簡単に発芽させることができます。例えば、アボガドの種子も、水でよく洗ってから、とがった方を上にして半分くらいが土から出るように浅く植えつけて、暖かい場所に置いておくと発芽します。
さて、生徒の皆さんは小学校の理科で、種子が発芽する条件を実験したことを覚えていますか。種子が発芽する条件は3つありました。その3つとは、水と空気(酸素)と適切な温度です。このことから、パイナップルやアボガドをうまく発芽させるコツは、水をやりすぎないことです。水をやりすぎると、空気(酸素)が種子に届かなくなってしまうからです。また、南国産の植物なので、適切な温度とは十分に暖かいということになります。
ところで、水と空気(酸素)と適切な温度さえあれば、本当に発芽するのでしょうか。
実は、種子が発芽する条件は、水と空気(酸素)と適切な温度の3つだけしかないと思いこんでいると、いくら待っても発芽しない場合があるのです。なぜなら、この3つの条件は、すべての植物にあてはまる条件ではあるけれど、それだけでは発芽しない植物がたくさんあるからです。
例えば、寒いところの植物の種子は、厳しい冬の寒さを経験させないと発芽することは絶対にありません。とくに、冬に葉を落とす落葉樹の種子のほぼすべてがこの条件に当てはまります。そのため、落葉樹であるドングリを無理やり発芽させたいときは、湿らせたキッチンペーパーではさんで、冷蔵庫の野菜室に3ヶ月間保管して、人工的に冬の寒さを覚えさせることが必要なのです。
身近な植物では、ホウレンソウやパンジーの種子も、寒さを経験させることが必要です。これらの種子を湿らせたキッチンペーパーではさんで、冷蔵庫の野菜室に1週間入れておくのです。このようにして寒さを経験させた種子は、暑い時期にまいても、ちゃんと発芽するので、収穫や開花の時期を早めることができるのです。
発芽の条件は他にもたくさんあります。
例えば、ニンジンの種子は光が当たらないと発芽しないのです。このように、発芽に光が必要な植物は、ニンジン、レタス、シソ、ハクサイなどの他に、ハーブのなかまがあげられます。ところが、日光を当てながら水を切らさずにおくことは大変です。だからこそ、ニンジンの栽培は、発芽させたら90%は成功であるとまでいわれています。
私は、十分湿らせた土にニンジンの種子をまいてから、もみ殻をうすくかぶせて水をたっぷり与えることで、この問題を解決しました。ちょっとした自慢になりますが、近所の農家の方に「ニンジンの栽培が上手ですね」とほめられたので、もみ殻が手に入るようでしたら、昔ながらのこの方法を皆さんも試してみてはいかがですか。
反対に、光が当たると発芽しない植物もあります。トマト、キュウリ、カボチャ、ネギ、タマネギなどの野菜や、パンジー、サルビア、コスモス、マリーゴールドなどの草花が代表的です。これらの種子は、種子をまいたら、光が届かないように、しっかりと土をかぶせる必要があります。
さて、打出中学校では夏休みに理科の課題としている自由研究の多くが、大津市科学作品展を経て、滋賀県の学生科学賞県展および作品展に進みました。その中で、打出中学校の多くの研究作品が受賞することができました。
もしも、県の代表に選ばれたなら、日本学生科学賞に出品されて審査されます。そして、内閣総理大臣賞をはじめとする賞金つきの各賞に入賞すれば、東京で皇室の面前で表彰されるという仕組みになっています。
その日本学生科学賞にて、2021年度の内閣総理大臣賞を受賞したのは、千葉県の市立中学校2年生の生徒でした。この生徒の「オシロイバナの種の研究〜発芽能力を手に入れるのはいつか〜」という研究は、種子の発芽条件について、驚きの新発見をもたらしました。その新発見とは、発芽するためには、種子が乾燥することが条件となる植物が存在するということでした。つまり、オシロイバナの種子を採取してからすぐにまいても発芽しないけれど、乾燥機で種子を十分に乾かしておくとちゃんと発芽するということです。オシロイバナの種子は乾燥を経験しないと発芽しないのです。
「種(たね)をまく」という表現は、「将来の成功のために、今から準備しておく」ということを意味します。 種子が発芽する条件は、「水と空気(酸素)と適切な温度」の3つの共通点の他に、植物によってそれぞれに適した条件がさらに必要でした。私たち一人ひとりにも違いがあるので、努力を実らせる方法も、それぞれの人に合った方法があるのだと思います。
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2026/01/30
映画「風の谷のナウシカ」の腐海と琵琶湖底の浄化システム
宮崎駿監督による「風の谷のナウシカ」はとても有名な映画です。この映画は、文部科学省(当時は文部省)の選定を受けたアニメーション作品でもあり、映画のタイトル場面に「文部省推薦」と書かれていたことに驚きました。選定された理由は、環境保全や人間愛について優れたメッセージ性を持っているからだそうです。環境保全の観点でこの映画を観ると、人間が住めない腐海(ふかい)といわれる場所が、世界を本来の姿に戻すための「浄化」の場所であることに主人公のナウシカが気づくことが、大きな意味を持っていることがわかります。ナウシカは、腐海の植物が世界の毒を吸い上げ、硬い結晶にして無害化していることを発見します。そして、「その砂はこの世界の土や空気や水の毒が結晶したものであり、腐海は瘴気として少しだけ毒を出しながら、実はこの世界を『浄化』しているのだ」と語っています。
「浄化」とは、環境を本来の正しい状態に戻すことを意味します。映画では、毒を結晶化して石に変える腐海を「浄化システム」として位置づけています。
それでは、生徒の皆さんは、琵琶湖にも、有害物を結晶化して石に変える「浄化システム」があると思いますか。
琵琶湖の環境保全において、最も深刻な課題は「富栄養化」です。これは、リンという養分が大量に流れ込み、水草や植物プランクトンが異常発生する問題です。リンは家庭排水や農業排水に多くふくまれています。例えば、コップ1杯の琵琶湖の水に、しょう油を1滴だけ加えて明るい場所に置いておくと、2週間もたてば植物プランクトンが異常に増えて黒板のような濃い緑色の水になってしまいます。(このことは、「校長室より2025/04/25」で詳しく説明しています。)今では、リンを含まない洗たく石けんが主流となり、下水道が整備され、にごった水を排水しない農法などの工夫がなされていますが、リンが大量に琵琶湖に流れこんだ過去の失敗をくり返さないことが求められています。
また、もう一つの大きな課題は、過去の産業廃棄物などにふくまれていた、ヒ素やカドミウムなどの有害物が地下水にとけて琵琶湖に流入していることです。
それでは、以上のリン・ヒ素・カドミウムについて、結晶化して石(鉱物や宝石)に変える「浄化システム」が琵琶湖に存在するのかを考えていきます。
私は昔、琵琶湖の湖底の堆積物を調べている先輩の研究の手伝いをしたことがあります。その中でいくつかの興味深いことを発見しました。それは、湖底の堆積物にふくまれているプランクトンの死骸が石に変わっていたことでした。プランクトンが死ぬと、雪のように水中をただよって、湖底に降り積もります、そのプランクトンの死骸を核として、何かが付着して結晶化していたのです。
顕微鏡で観察すると、この石には2種類あって、湖底の地面付近では、プランクトンの死骸が茶色におおわれて、茶色の石に変化していました。この石は湖成鉄(こせいてつ)とよばれるもので、水中の鉄分が付着したものでした。この湖成鉄は、リンや有害なヒ素とカドミウムを吸収して固定しているので、琵琶湖の「浄化システム」で間違いないと考えられます。
もう一つの石は、宝石のように美しい藍鉄鋼(らんてっこう)とよばれる石です。こちらは、湖底の少し深いところにふくまれていました、やはりプランクトンの死骸を核にして、羽を伸ばすように結晶化して、濃い青(藍色)の美しい石に変化していました。この藍鉄鋼は、おもにリンを成分としています。したがって、リンを吸収して石になり、琵琶湖の富栄養化をおさえるはたらきをしています。したがって、これも「浄化システム」で間違いないと考えられます。
ところで、これらの「浄化システム」は、微妙なバランスの上に成り立っていて、実は、たいへん危うい状態だと心配されています。万が一、湖底付近で酸素を含んだ水がなくなることが続けば、酸素不足により湖成鉄がとけてしまって、閉じこめられていたリンや有害なヒ素とカドミウムが放出されてしまうのです。また、湖底の堆積物に閉じこめられていた大量のリンも一斉に放出されてしまうのです。このようなことが現実になれば、きれいで安全な飲み水がなくなってしまうかもしれません。
さて、琵琶湖のような深い湖は、上下2つの湖に分かれています。春から夏の間に光がとどく表層だけが温められて、深層との温度差ができるため、密度の関係で表層と深層の水が混ざらなくなってしまうからです。そのため深層では、湖底に積もったプランクトンの死骸が腐るときや、湖底にいる生物の呼吸のときに、水にとけている酸素がどんどん使われて、水中の酸素がだんだん減っていきます。
毎年、ちょうどこの時期に、比良山地から吹き降ろされる冷たい風が琵琶湖の表層を冷やします。そして、表層の水温が深層と等しくなると、上下2つの湖の境目がなくなって、ようやく深層に酸素がとどけられるのです。この現象は、「琵琶湖の深呼吸(全層循環)」と呼ばれています。
この「琵琶湖の深呼吸」のおかげで、酸素をふくんだ水が湖底にとどけられ、琵琶湖の「浄化システム」が保たれ、リンや有害なヒ素やカドミウムなどが、結晶化して石となり、湖底に閉じこめられます。そのため、「琵琶湖の深呼吸」が今年もちゃんと起きてくれるのだろかと、専門家の方々が心配しています。
「今年も無事に『琵琶湖の深呼吸』が確認されました!」という、うれしいニュースを待ちたいと思います。
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2026/01/26
美味しい大根の見分け方
先週、特別支援学級が栽培していたダイコンが廊下にならべられました。ダイコンはどれも大きくて、たいへん見事な出来でした。みんなで一生懸命収穫し、付着していた土をていねいに水で洗い落としたそうです。ところで、ダイコンを収穫している様子を見て、「さすがだなあ」と感じたことがあります。 生徒の皆さんは、ダイコンを収穫するタイミングをどのようにして決めたらよいかを知っていますか。
収穫が遅れると、ダイコンの中に穴ができたり、割れたりしてしまうのです。かといって、早めに収穫すると、水分が十分に貯えられていないので味が悪くなってしまうのです。
収穫するタイミングのヒントは、ホームページの「学校アルバム」に掲載したダイコンの写真の中にもあります。それでは写真のダイコンの葉に注目してみてください。ダイコンの外側の葉が下向きに生えていることに気づきましたか。ずばり、写真のような時期こそ、収穫の絶好のタイミングなのです。
なぜなら、葉でつくられた栄養分がダイコンに十分に貯えられたら、葉が役割を終えるので、外側の古い葉から順にたれ下がってくるからです。つまり、写真のように外側の葉がたれ下がっていたら、収穫に適した時期なのです。そして、このまま放置すると、たれ下がった葉から順に黄色くなって枯れていき、収穫の時期を逃してしまいます。
お店で売っているダイコンは、葉が切り落とされています。葉をつけたままにしておくと、葉の気孔から水が蒸散してしまうので、ダイコンの中の水分が減ってしまい、日持ちが悪くなるからです。もしも、葉がついたままのダイコンがお店で売られていたら、葉がついたまま買ってください。ダイコンの葉はダイコンそのものよりも栄養分が豊富で、ビタミンなども多く含んでいるので、炒め物や味噌汁、ふりかけなどにして、美味しくいただくことができると思います。
さて、生徒の皆さんは、「ダイコンは大きな根?」という説明文を中学1年の国語の授業で読んだと思います。その中で、ダイコンについて初めて知ったということがたくさんあったのではないでしょうか。
例えば、ダイコンの食べている部分は根だけでなく、上の方は胚軸という茎のもとになる部分だということが書かれていたと思います。そして、ダイコンの上の方の胚軸の部分は、根で吸収した水分や葉でつくられた栄養分を運んでいるので、水分が多くて甘みが強いことも書かれていました。また、ダイコンの下の方の根の部分は、土の中の虫に食べられないように辛い成分が多く含まれていることも書かれていました。このような味の違いを生かして、ダイコンの上の方と下の方を料理に合わせて使い分けるとよいことも書かれていました。
なお、「ダイコンは大きな根?」という説明文には書かれていませんが、ダイコンの胚軸の部分と根の部分の境目は、簡単に見つけることができます。それでは、ホームページに掲載したダイコンの写真を見てください。ダイコンの半分くらいが地上に出ていることに気づきましたか。生長したダイコンは、土から半分くらい出ているものなのです。つまり、ダイコンは、土に埋まっている部分が根であり、地上に出ている部分が胚軸なのです。地上に出ている胚軸は、茎の役割をしているので、葉緑体があります。そのため、ダイコンの地上の部分は光合成をしており、緑色をしているのです。
それでは、美味しいダイコンはどんな形をしているのかを考えていきます。
収穫したダイコンの中に変形したものができてしまうことがあります。例えば、たくさんの根に枝分かれしてしまったものがあります。また、ダイコンの根の部分をよく観察すると、小さなくぼみが、普通はまっすぐたて一列にならんでいるのですが、ねじれるようにならんでしまっているものがあります。
実は、以上のような形や特徴が現れた場合は、栽培方法が悪かったといえるのです。その場合、ダイコンの本来の甘みやみずみずしさが損なわれています。
では、栽培方法にどんな失敗があったのでしょうか。
昔から、「ダイコンを育てるときには、はじめに3回以上耕しておけ」と言われています。なぜなら、土を1回しか耕していないと、ゴロゴロした土のかたまりが残ってしまい、かたまりを避けるように根が枝分かれしてしまうからです。また、「ダイコンには、くさい臭いが残る未熟な肥料をあたえてはならない」とも言われています。なぜなら、くさい臭いが残る肥料は、有害な気体を発生させてしまうために、根が傷つけられて枝分かれしてしまうのです。このように先の方が枝分かれしたダイコンは、ストレスから身を守るために、辛い成分や苦い成分を普通よりも多く含んでしまっているのです。
さて、生徒の皆さんは、中学1年の理科で、ダイコンは双子葉類であることを学習したと思います。根のつくりが主根と側根に分けられることが双子葉類の特徴です。太いダイコンそのものが主根であり、小さなくぼみがならんでいるところに、側根が生えていたのです。
ダイコンの小さなくぼみに注目して考えると、農地の管理が不十分で、水が不足したり土が硬かったりすると、根がすくすくと生長できないので、側根がねじれるように生えてしまうのです。つまり、ダイコンの小さなくぼみがねじれるようにならんでしまうのです。このようにくぼみがねじれてならんでいるダイコンも、ストレスから身を守るために、辛い成分や苦い成分を普通よりも多く含んでしまっているのです。
ところで、お店にならんでいるダイコンの太さが均一で同じような形をしているのには、農家の栽培方法に秘密があります。
その秘密は、ふたばの形にあります。昔から「ダイコンのふたばの形はハート型がよい」と言われています。研究によると、整ったハート型のふたばのダイコンは、根の太さが全体的に均一でまっすぐのびることが分かっています。一方で、ふたばの形が角ばっているものは真ん中が太いダイコンになり、細長いものは先の方がやせ細ったダイコンになり、丸いものは丈が短いダイコンになるそうです。だから、農家は一か所に何粒かの種子をまいて、ふたばが開いたときに、整ったハート型の苗だけを残しているのです。
ダイコンの栽培は簡単ではありません。種子をまいて水をやるだけでは美味しいダイコンはできないのです。農家の方は、美味しい大根をつくるために研究や経験を重ねておられるのです。
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2026/01/20
氷の下の春
今週も冷えこみが厳しく寒くなるという予報がありますので、体調管理に気をつけてください。また、いたるところで路面が凍結する恐れがありますので、通学にも十分に気をつけてください。さて、生徒の皆さんは、池や水たまりに氷が張っている様子を見たことがあると思います。あちらこちらの水たまりに氷が張ると、ついつい割ってみたくなるものです。有名な俳人 長谷川かな女先生もこのことについて俳句を詠んでおられます。
初氷 割りて登校 下校かな
ところで生徒の皆さんは、水が水面から凍ることに疑問を感じたことはありませんか。また、水を入れたコップに氷を入れると、氷が浮かぶことに疑問を感じたことはありませんか。
実は、身の回りのほぼすべての物質は、液体から固体になるときに体積が減り、密度が大きくなるため、自分自身の液体の中に固体を入れると浮かばずに沈むものなのです。そのため、液体が凍る(凝固する)ときには、液面ではなく底の方から凍るのが普通なのです。例えば、中学1年生の理科で、液体のロウを冷やすと、冷やされた液体のロウが下の方へ沈んでいき、下の方から凍っていく(固体に変化する)様子を学習したと思います。
また、小学生のときに、水を容器に閉じ込めて、冷やしたら水の体積が少しだけ減ることを学びました。水は冷やされると、体積が減って密度が大きくなるのです。そのため、冷やされた水はどんどん底の方へと移動していきます。ところが、水は固体(氷)に変化するときになると、水は例外的に六角形の結晶形をつくるので、逆に体積が増えるのです。例えば、ペットボトルを満水にしてから冷凍庫で凍らせると、ペットボトルがふくらんでまんまるになってしまうのです。このように水が氷に変化すると体積が増えて密度が小さくなるため、氷に変化するにつれて浮かび上がり、水面から凍りつくのです。
つまり、水の性質は身の回りの物質の中では代表的な例外であり、固体(氷)が液体(水)に浮かび、液面から凍っていくのです。
それでは、もしも氷が水に沈むとしたら、どのようなことが起こってしまうのかを考えてみてください。
例えば、氷や雪が水底に沈んでしまうと、水底で生活している貝やエビなどが生きていくことができないと思います。水底の生物が氷に閉じこめられて凍死してしまうからです。同じように水草も冬の間は枯れてしまうでしょう。また、底の方から凍っていくにつれて、魚たちはすみかを追われ、水面へ移動せざるを得なくなります。そのため、魚たちはかくれることができなくなって、水鳥に食べつくされてしまうかもしれません。
このように、例外的に氷が水に浮かび、水が表面から凍ることは、池や小川の生物の命を守ることにつながっています。また、水面が凍ると、できた氷が冷たい空気との間に層をつくります。これによって、氷の下の水温が0℃以下に下がることが防がれて、どんなに冷えこみが厳しくても、水中の温度が下がりすぎないように保たれるそうです。このように、氷の下にも温かい水があり、春が始まっている様子を詠んだ俳句がありますので、次に紹介しておきます。
残る氷 水底(みなそこ)の 春日和 (作者不詳です)
今日から「大寒」といわれる一年でいちばん寒さが厳しくなる期間に入りました。節分までのこの時期を乗り越えることで、暦のうえでは春を迎えます。自然界は少しずつ春に向けて動き始めています。
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