校長室より
2025/12/26
サザンカの花粉を運んでいるのは誰なのか
学校の中庭にサザンカの花が咲いています。サザンカの歌といえば、冬の情景を歌った童謡「たきび」が有名です。「♪ さざんか さざんか 咲いた道 たき火だ たき火だ 落ち葉たき 『あたろうか』 『あたろうよ』 しもやけ おててが もうかゆい ♪」
法律で「野焼き」が禁止されてゴミ焼却は認められていませんが、火事に気をつけて近隣に迷惑をかけないようにすることで、落ち葉たきは大津市でも認められています。小さい頃に「たきび」を歌いながら、落ち葉たきで焼き芋をした経験がある人もいるのではないでしょうか。
さて、サザンカの花を観察すると、多くの雄しべがあって黄色い花粉がたっぷり作られています。これらをかき分けると中心の雌しべのつけ根に、きらきらと光る水滴のような「みつ」がたくさん見られます。「みつ」はねっとりしていて上品で強い甘さがあります。サザンカのはちみつは、「まぼろしのはちみつ」ともよばれていて、市場に出回ることはほとんどないそうです。なぜなら、サザンカの花は冬に咲くため、ミツバチが活動できるような暖かい日にしか、はちみつを集めることができないからだそうです。
確かに、寒い日には野外でミツバチやチョウのような昆虫を見かけなくなります。それではいったい誰が、サザンカの花粉を運んでいるのでしょうか。
ミツバチやチョウのような昆虫や、カメやヘビのようなは虫類、カエルやイモリのような両生類は、変温動物です。変温動物は体内で熱をつくる能力が低く、気温が低くなると体温が下がります。そして体温が下がると、体内の化学反応を起こせなくなって動けなくなるのです。冬や気温が低い早朝に、これらの動物がじっとしているのは、動かないのではなくて動けないのです。
一方で、私たち人間やイヌのようなほ乳類は、気温が下がっても体温を一定に保つことができる恒温動物です。体温が下がっても動きがにぶることがなく、いつでも活発に活動できるのは、体内で熱をつくることができる能力のおかげです。同じように、メジロやヒヨドリのような鳥類も恒温動物なので、冬や気温が低い朝でも活動することができます。鳥たちが早朝から鳴いているのは、寒くても活発に動き回って、変温動物が寒くて動けないうちに、これらをつかまえて食べているのです。
ところで、クマやリスも恒温動物なので冬でも活発に活動できるはずですが、例外的に変温動物のように冬眠します。ただし、体温を維持しているという点では、体温を維持できない変温動物の冬眠とは異なっています。クマやリスにとっては、冬の間はいつも食べている食べ物が少なくなるので、体温を一段階下げて省エネモードにして、体温維持に必要な栄養を節約するのです。
以上のことを整理すると、誰がサザンカの花粉を運んでいるのか、生徒の皆さんはもうおわかりだと思います。
鳥が花の「みつ」を吸うのを目撃したときは、本当に衝撃的でした。鳥が、次々と枝や花にぶら下がりながら、くちばしを花に差し込んで「みつ」を吸っていたのです。黄緑色で目のまわりに白いリングがあったので、調べてみるとメジロという鳥で間違いありませんでした。つまり、メジロという鳥がサザンカの花粉を運んでいたのです。
野外で冬に咲く花の種類はそれほど多くありません。なぜサザンカが、大きい花をわざわざ冬に咲かせているのかを考えることで、今まで気づいてなかったことを考える機会になりました。
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2025/12/23
石を切る
「石の博物館」は京都駅北口を出たところにさりげなく存在しているので、意識して探さないと見過ごしてしまいます。また、博物館という先入観を持って探すと、ちょっとわかりにくいかもしれません。3年生の生徒の皆さんには、修学旅行の集合場所付近に存在するといえば、探すときには大きなヒントになると思います。京都駅前の「石の博物館」は無料で見学でき、35ヶ国から集められた288種類の石が展示されています。この中から73種類の石が京都駅ビルの建物に実際に使用されているそうです。この 「石の博物館」は1か所だけでなく、6か所の「あずまや(壁がなく柱だけの小屋)」に分かれています。
私が「石の博物館」に気づいたのは偶然ですが、石を研究テーマに選んだこともあり、石材を見ることが増えました。(私が過去にどのように郷土の石の研究をしていたのかについては、「江若花崗岩体」と検索すると一番上に表示されますので、PDFで内容を見ていただけます。)
石を研究するためには、はじめにくだいたり切ったりする必要があります。そこで、石を切ることができる「岩石切断機」の出番です。「岩石切断機」は、ダイヤモンドの粒を外周に埋め込んだ円盤状の刃を回転させてどんなに硬い石でも切ることができます。ところが、切り口がこすれて熱くなりすぎないように刃に水を注ぐ構造になっているため、けずられた石をふくんだ真っ黒な水滴が周囲に飛び散ってしまうのです。研究用の切断機は直径10cm程度の石を切るのに3時間くらいかかり、その間に髪や服が真っ黒に汚れてしまうのが残念なところでした。
研究用の「岩石切断機」はどんなに硬い石でも切れるので「無敵だ」と称賛するほど高性能でした。ところが上には上があるものです。岐阜県の「関が原石材」という工場を見学させていただいたときには、直径が4メートル程もある円盤状の刃が巨大な石を切断していたのです。巨大な石から石の板がぐんぐん切り出されていく様子はとても迫力がありました。今から思えば、京都駅ビルの建物の壁や床に使われている大きな石タイルは、このように切り出されていたのでしょうか。
工場の方にお聞きすると、日本ではよい石材がなかなか手に入りにくくなっているそうです。石材のよい部分はすでに採掘されており、石材に穴が開いていたり、ひびが入っていたりすると商品価値がなくなるので、今では大部分を外国から手に入れているとのことでした。
石タイルは、耐久性や耐火性があり、傷や汚れに強いのでさまざまな場所に使われています。石タイルには宝石のような輝きを持つものや宝石がふくまれているものも少なくありません。月の光のような青白色の光が移動して見える黒っぽい花こう岩の石材としては、「ブルーパール(ノルウェー産)」が有名です。また、濃い赤色のガーネットの宝石をたっぷりふくんだ大理石の石材としては、「ガーネット・ラッシュ・マーブル(インド産)」が有名です。
お城の石垣や神社、お墓の石など、昔から私たちのくらしと石材は深い関係があります。近頃は、石の模様を印刷したものやセラミックでまねをしたものなど、石の味わいを生かした家具がたくさん製造されています。また、街角でも建物の壁や床、デパートの商品棚などをよく見ると、面白い石材が使われていることがあります。
身近なところでも、ちょっと違う角度から眺めてみると、いろいろな面白い発見があるものです。
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2025/12/19
「パクパク」の肉食と「モグモグ」の草食
生徒の皆さんは、歯や骨格を観察するときに一番大切なことは何だと思いますか。私は、「歯や骨の形」だと考えたのですが、それだけではないようです。京都市動物園の方にお話を聞く機会がありました。歯と骨のつながりや骨と骨のつながりに注目して、体をどのように動かしているかを考えることが一番大切だそうです。
草食動物は「モグモグ」、肉食動物は「パクパク」と食べるという視点で、動物園を見学するとまた違う楽しさがあるそうです。「モグモグ」だから草食、「パクパク」だから肉食だと見学していると、どうしても動物が食べている場面を見たくなるのです。ところで、私たち人間は、植物も肉も食べることができる雑食動物ですので、「パクパク」と「モグモグ」のどちらの動作もできるのです。
例えば、ゾウのような草食動物のあごは、草をすりつぶすために左右に大きく動くのです。つまり、いつも「モグモグ」と口を動かして食事をしています。この「モグモグ」と草をすりつぶす動作は、口を大きく開いて素早く開閉する「パクパク」という動作ではありません。つまり、草食動物のあごのつくりは、草を効率的に食べるための構造になっているため、「パクパク」という上下の動作には適していないのです。
これに対して、ライオンのような肉食動物は、「モグモグ」と左右にあごを動かすことができません。あごの骨のつながりを調べると、「パクパク」と上下に動かせますが、「モグモグ」と左右に動かすことができないような構造になっているのです。ライオンのような肉食動物のあごのつくりは、獲物を捕らえて肉を引きちぎるために、「パクパク」と上下の動きに特化しているからです。
さて、琵琶湖博物館でゾウの歯を見せていただいたとき、歯の寿命について考える機会がありました。
ゾウの歯は口の奥にあり、食べた植物をすりつぶす役割を担っています。この歯は、私たち人間の奥歯にあたり、臼歯(きゅうし)という種類の歯です。ゾウはかたい植物を食べるため、臼歯がすぐにすり減ってしまいます。見せていただいた歯も、びっくりするほど前の方がすり減っていました。ゾウは、私たち人間とは違い、一生に5〜6回も歯が生え変わるそうです。そして最後の臼歯がすり減ってしまうと、草が食べられなくなってしまい、歯が寿命を終えるとともに自分自身の寿命を終えるそうです。
ところで生徒の皆さんは、日本に住む人の平均寿命は女性が87歳、男性が81歳と、日本が世界有数の長寿の国であることを耳にしたことがあると思います。そして、この平均寿命というものは、歯の寿命においても算出されています。厚生労働省の調査によると、日本に住む人の歯の平均寿命は歯の種類ごとに異なっていますが、約50年〜65年だそうです。つまり、人間の平均寿命と比べてみると、歯の平均寿命は20〜30年も短いのです。
昨年(2024年)の統計では、滋賀県の男性の平均寿命が81.78歳となり、初の全国1位に輝きました。女性も87.57歳で全国4位と伸びています。しかも、健康で自立した生活ができる健康寿命も、男性が80.39歳で全国2位、女性が84.44歳で全国3位となっています。これらは、滋賀県民の食事や生活の改善、地域の健康づくり活動、禁煙などの学校教育の成果が表れていると言われています。
歯についてもしっかりケアをすることで、さらに寿命をのばすことができるといわれています。健康は食生活からといわれるように、「パクパク」「モグモグ」としっかりと何度もかむことや、歯みがきの習慣を大切にして、健康的な生活を心がけていきましょう。
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2025/12/16
忍者の「まきびし」
忍者が使う道具といえば、「しゅりけん(手裏剣)」と「まきびし(撒菱)」が有名です。「まきびし」は、ヒシという水草の実を乾燥させたものです。ヒシの実は3〜5cmくらいの大きさで、どのように置いても、とがった先が上になるような形をしています。したがって、忍者が「まきびし」をばらまくと、追いかけてくる相手はとがった先を踏まないように避けなくてはならず、そのすきに逃げきることができたと考えられています。
時代劇では鉄製の「まきびし」が登場しますが、ヒシの実を乾燥させた「まきびし」は、鉄製に負けないくらい丈夫です。しかも中空になっているため、地面にまくとカラカラと音がするほど軽いのです。
私が初めて「まきびし」に出会ったのは、金沢市の忍者寺です。忍者寺を観光で訪れたとき、数多くの隠し部屋、隠し階段、そして落とし穴まで忍者屋敷のようなしかけがたくさんあり、その一つひとつの意外性や完成度にたいへん驚きました。その体験の記念に2個入りの「まきびし」のお土産を見つけて買ったのです。この「まきびし」はヒシの実を乾燥させたもので、先は画びょうのようにとがっていて、ちょっと危険なものでした。
次に私が「まきびし」に出会ったのは、大津市伊香立の道路わきでした。たまたま道路工事をしていた場所に、灰色の粘土の地層があったので観察してみることにしたのです。すると、灰色の粘土の中に、「まきびし」の形をしたヒシの実がたくさん含まれていたのです。これらのヒシの実は真っ黒な炭のように変化していて化石になっていました。後で調べてみると、大昔に大津市伊香立まで琵琶湖が広がっていたので、その当時はこの辺りまでヒシなどの水草がたくさん生えていたそうです。
このようにヒシの実を探していると、打出浜の湖岸の石積みの間に流れ着いたものも意外とたくさんあることが分かりました。身近なところにたくさんあったことが驚きでした。確かに琵琶湖にはたくさんのヒシが生えていて、このヒシの実を食べるためにたくさんのカモが集まっています。カモには、渡り鳥としてシベリアなどから温暖で餌が豊富な琵琶湖へ移動するものと、一年中日本で生息するものがいるそうですが、今の琵琶湖にはとてもたくさんのカモが浮かんでいます。琵琶湖はカモにとって、冬を過ごすのに理想的な条件がそろっているのだそうです。
ところで、生徒の皆さんはヒシの実は美味しいものだと思いますか。
水鳥を研究されている方のお誘いで、ヒシの実を食べる機会がありました。ヒシの実は緑色をしているうちに収穫して、塩を少し加えて20分くらいゆでてから、ラッカセイのように外側のからをむいて、中にたっぷりつまった白い部分を食べることができます。食べてみると、まるでクリのようにホクホクしてジャガイモのようにほんのりあまい栄養満点?の味でした。カモのように生で食べると、シャキシャキしてクルミのような味がするそうですが、私たちがそのまま食べることは衛生面から、おすすめできないとのことでした。
琵琶湖には今、カモの他にもたくさんの水鳥が訪れています。琵琶湖は多様な水鳥にとって重要な生息地であり、越冬地です。特に冬場は10万羽を超える水鳥が飛来するといわれるほど豊かな湖なのです。
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2025/12/12
津波(つなみ)は波ではない
地震でできる津波は、普通の波とは根本的に異なっています。津波は、海底から海面までつながった巨大な水のかたまりが、一気に押し寄せてくるものです。簡単にいえば、津波は海全体が川となって流れてくるものなのです。普通の波は、風によって海の表面だけが動きます。これに対して、津波は、地震によって海底が跳ね上がったために海が持ち上げられて、海水全体が動きます。
東日本大震災での津波の高さは、場所によって大きく異なりますが、岩手県では海面から40.5mの高さが記録されました。この場所では、13階建てのビルの高さの水のかたまりが、川のように流れてきたのです。津波が押し寄せる速さは、沖合ではジェット機なみ(時速800km)ですが、陸地に近づくにつれて、スピードを落とすかわりに高さをどんどん増していきます。そして、津波が海岸に到達するときには秒速10m(時速36km)くらいになります。この速さでも、津波が見えてから走って逃げきることはオリンピック選手でも困難です。
さて、生徒の皆さんは、「稲(いな)むらの火」という物語を知っていますか。
津波に関する物語では「稲むらの火」が最も有名です。「稲むらの火」は、江戸時代に起こった南海トラフ地震による津波の記録に基づいて、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が書いた物語です。小泉八雲は日本を愛した作家です。小泉八雲は、西洋の神様がただ一つの全知全能の存在であることに対して、「日本人は人のために尽くした人たち(偉業をなした人たち)も神様のようにうやまう」ことを、物語「A Living God(生きている神様)」を通して、英語で全世界へ発信しました。この作品は翻訳され、「稲むらの火」として国語の教科書に掲載されました。
「稲むらの火」のあらすじは次の通りです。
〜高台に住んでいる五兵衛は、地震のゆれを感じたあと、津波がやってくることを予想しました。村人たちに危険を知らせるため、五兵衛は自分の田にある刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に火をつけました。火事だと思って消火のために高台に集まった村人たち。その眼下で、津波が村を飲みこんだのです。五兵衛の機転によって村人たちは津波から守られました。〜
主人公の五兵衛の実在のモデルは、濱口儀兵衛さんです。濱口さんは、この災害の後も橋を修理するなどの復旧につとめ、当時最大の海沿いの堤防を4年がかりで完成させました。しかも、これらに費やした莫大なお金はすべて私財を投じたものでした。人命を第一とするこのような偉業に対して、地元住民から神様のようにたたえられています。
ところで、津波の恐ろしいところは、海が見えない場所であっても決して油断できないところです。
東日本大震災では、津波が山を迂回して小学校を襲いました。児童と教職員の多くが犠牲になったこのような悲劇は繰り返してはならないことです。このような東日本大震災の記憶と教訓を後世に伝えるために、津波の最大到達地点に桜の木を植える活動が続けられています。
南海トラフ地震のように、海溝型の地震は必ず津波を伴います。海が見えない場所でも地震と津波を一体として考えて1秒でもはやく避難することが大切です。
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2025/12/09
周期的におこる地震
昨夜、青森県東方沖で最大震度6強の地震が発生しました。私も報道をみて地震による多くの被害に心を痛めています。震度6強と聞くと、生徒の皆さんはどれくらいのゆれの大きさを想像しますか。
「7/18の校長室より」のように、震度5は固定していない家具=A震度6は耐震性の低い木造家屋$k度7は耐震性の低い鉄筋ビル≠ノ被害が出るゆれの大きさです。そして、「弱」はずれる=A「強」は倒れる≠表しています。したがって、震度6強は、耐震性の低い木造家屋が倒れる≠ルどのたいへん大きなゆれだったのです。
今回の地震も東日本大震災のように、海のプレートが陸のプレートにぶつかる境界で発生した海溝型の地震でした。地球の表面は厚さ100kmくらいのプレートとよばれる10枚くらいの岩盤で覆われていて、地球内部のエネルギーによって、すべてのプレートは爪がのびるくらいのほぼ一定の速さで水平に動いています。そして、海のプレートは陸のプレートよりも重い岩石でできているため、ぶつかった境界で日本列島をのせた陸のプレートの下に、海のプレートが沈みこんでいます。
このように、海のプレートが沈みこんでいくときに、陸のプレートが下へ下へと引きずりこまれてしまうので、境界付近はへこんで「海溝」になっています。ところで、いくら陸のプレートが引きずりこまれるといえども、日本列島が海中に沈没することは絶対にありえません。なぜなら、陸のプレートは海のプレートよりも軽いので、いくら引きずりこまれようとも、限界をこえたときに一気に浮き上がるからです。このようにして、陸のプレートの海溝付近が跳ね上がる瞬間が、今回のような海溝型の地震となっています。
実は、海溝型の地震がある程度周期的に起こることは、世界の地質学者の間では常識として語られています。なぜなら、海のプレートがほぼ一定の速さで陸のプレートの下に沈みこんでいることや、陸のプレートが限界をこえたときに一気に浮き上がることが、すでにわかっているからです。
ところで、今後、滋賀県に大きな被害をもたらすと考えられている海溝型地震は、南海トラフ地震です。
南海トラフ地震は、静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘沖にかけてのプレート境界を震源として、おおむね100〜150年周期でくり返し発生してきた大地震です。直近で南海トラフ地震が起こったのは1944年であり、戦時中であったために被害状況が隠されていました。
したがって、次に南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率は、60〜90%程度確かであると計算されています。想定される最大規模で起こった場合、大津市では震度6強のゆれが伝わることが予測されています。今回の一連の地震で内閣総理大臣が青森県の方々に、家具が倒れないように固定することをよびかけられたように、私たち自身も、地震への備えが必要です。
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2025/12/05
雪は天から送られた手紙
今日は打出中学校に初雪が降りました。生徒の皆さんは、世界一たくさん雪が降り積もった国と地域はどこだと思いますか。その答えは、日本で滋賀県なのです。滋賀県は積雪量世界一の記録を持っています。1927年(昭和2年)2月14日に伊吹山で観測された11m82cmの積雪が、世界一として認められています。この記録は今でも破られておらず、ギネス世界記録に登録されています。この高さは、4階建ての打出中学校の校舎の高さとほぼ同じです。
このようなことは不思議なことではありません。もともと日本そのものが積雪の多い国だからです。気温だけで考えると南極やロシアの方がはるかに寒いのですが、日本のように雪がたくさん降るわけではありません。なぜなら、雪が降るためは、空気が多くの水分を含んでいることと、その空気が山などにぶつかって上昇することが必要だからです。
日本付近では、アジア大陸から太平洋へ向かう冷たくて乾いた冬の季節風が、日本海をわたる間に、あたたかい対馬海流から立ちのぼる水分をたっぷりと含みます。その空気が山脈にぶつかって上昇し、日本海側に多くの雪を降らせています。つまり、日本海からの湿った季節風が、伊吹山地の西側斜面にぶつかって急激に上昇したことで、滋賀県に大量の雪が降り積もったのだといえるのです。
ところで生徒の皆さんは、「雪は天から送られた手紙」という言葉を耳にしたことはありますか。
「雪は天から送られた手紙」という表現は、詩のように美しいと思います。例えば雪は、地上を白く清め、季節の移ろいを感じさせたり、はかなく消えてしまう特別な瞬間を思わせたりするからです。しかしながら、「雪は天から送られた手紙」という表現は、詩人ではなく、科学者が残した言葉なのです。
「雪は天から送られた手紙」という言葉は、中谷宇吉郎氏が残したものです。雪の結晶の美しさに魅せられて世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功した方です。冬山にこもって3000枚もの雪の結晶の写真を撮影し、気象観測記録と見くらべる研究を続けられました。その結果、雪ができる場所の気温と水分量によって雪の結晶の形が決まることを発見して、雪の結晶の形さえ観察すれば、上空の気温と水分量が分かることをつきとめたのです。このことから、「雪は天から送られた手紙である」という表現が生まれたのです。
私も雪の結晶を顕微鏡で観察しようとしたことがありますが、上手く見ることができませんでした。雪をスライドガラスにのせるとすぐにとけてしまったり、私のあたたかい息がかかってとけてしまったりしたからです。中谷宇吉郎氏は、「寒さにふるえながら観察をされたのだなあ」と、雪を観察することの難しさを実感しました。
このように簡単なように思えることでも、やってみるとたいへん難しいことがたくさんあります。それでもやってみる価値があると思えるのです。
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2025/11/27
星のまたたき
街灯が少ない暗いところへ行くと、夜空の星がよく見えます。冬の星座は一等星が多いので、明るくて見ごたえがあります。3つの1等星を結んでできる大きな三角形の「冬の大三角」は、11月下旬には夜9時頃から東の夜空に見ることができます。「冬の大三角」は「夏の大三角」とは異なり、正三角形に近い形なので、簡単に見つけることができると思います。
「冬の大三角」を明るい星の順にならべると、「シリウス」「プロキオン」「ベテルギウス」の順になります。しかも、「シリウス」は3つの星の中で最も明るく見える星であり、「ベテルギウス」はオレンジ色をしているので見分けることも簡単です。
ところで、生徒の皆さんは星座の星がまたたいていることに気づいていますか。星をじっと見つめているとチカチカとまたたいて見えるのです。
星のまたたきは、天文学ではシンチレーションとよばれている現象です。山岳小説で有名な新田次郎氏は、星のまたたきを「永遠のためいき」と表現して、3人の女性登山者を全面に出したミステリアスでロマンスのある山登りの小説を執筆されています。
星がまたたくのは、実際に星自体が光を強めたり弱めたりしているわけではありません。例えば、水の底から地上を見たときに地上の景色がゆらゆらとゆれて見えるのと同じように、大気の底から宇宙を見たときには宇宙の星がゆらゆらとゆれているように見えるのです。つまり、星のまたたきの原因は、地球の大気がゆらいでいることなのです。
個人的な話になりますが、私が長年お金をためて初めて買ったものは望遠鏡でした。望遠鏡でいろいろな星を見て実感したのは、星座を形づくる星を望遠鏡で拡大しても、肉眼で見るのと変わらず光の点にしか見えなかったことです。これは、星座を形づくる星が地球から非常に遠く離れているので、どれだけ倍率を高くしても直径がほとんどないに等しいためだそうです。望遠鏡の役割は、拡大することよりも、多くの光を集めて暗い星を見えやすくすることだそうです。
ところで、夜空にはまたたかない星もあります。それは、「金星」、「火星」、「木星」、「土星」など、地球と同じように太陽の周りをまわる惑星です。
これらの惑星を望遠鏡で見ると、ちゃんと拡大されて、表面の模様まではっきりと見えるのです。つまり、惑星だけがまたたかないのは、惑星は星座を形づくる星よりもはるかに地球の近くにあるため、同じような明るさでも輝く面積が大きいので、大気のゆらぎの影響をそれほど受けないからです。
夜空を観察する機会があったら「冬の大三角」やいろいろな星座を探してみましょう。「冬の大三角」と同じような明るい星が他にも見えると思います。その明るい星がまたたいていないとしたら、その星は惑星なのです。このようにして、肉眼で惑星を簡単に見つけることができるのです。
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2025/11/18
流行るラーメン屋さん
美味しいラーメンをいただくために、長い列にならびました。列は店の中まで続いていました。店内では食べている人の後ろに次の人がならび、自分の順番が来て席についたら注文するようになっていました。当然、私の後ろには次の人がならんでいました。だからなのでしょうか、私は次の人を待たさないように、夢中でラーメンをいただきました。このように、とてもあわただしい食事でしたが、ラーメンと真正面から向き合ったという充実感が残りました。さて、生徒の皆さんは、壁や衝立(ついたて)を背にして食事をするのと、後ろに壁や衝立がないところで食事をするのとでは、どんな違いがあると思いますか。
壁や衝立を背にして食事をすると、安心感が生まれて、ゆっくり食事を楽しむことができます。一方、後ろに壁や衝立がないところで食事をすると、急いで食べなくてはならないという気分になるものです。ましてや、最初に紹介したラーメン屋さんにように、後ろから見つめられると、さらに急いで食べなくてはならないという気分になるものです。
以前私が生物学の先生から聞いた話に、「ラーメン屋さんの失敗」というものがあります。
それは、お客さん思いのラーメン屋さんが、衝立を買ってお店に置いたら、お客さんが来なくなってしまったというお話です。壁や衝立を背にして食事をすることで、お客さんがゆっくりと食事を楽しむようになってしまい、多くのお客さんを迎えることができなくなったのです。反対に、壁や衝立を背中側に置くことで、コース料理をゆっくり楽しんでもらうことができるので、たくさんの品数を注文していただくお店には、とてもよいことだそうです。
このような結果になる理由は、人類の歴史そのものに関係しています。
草原で誕生した人類は、常に外敵から身を守る必要がありました。猛獣からねらわれている状況では、常にまわりを警戒する必要がありました。とくに食事中は無防備になるため、背中側から襲われないように、岩などを背にして食事をしていたそうです。つまり、背中側に壁や衝立を置くことで安心できるのは、人類の本能なのです。
以上のことを考えると、短時間で効率よく学習するためには、背中側に何も置かずに空けておく方が良いといえます。反対に、趣味の読書などでくつろぎたいときは、背中側に壁や衝立がある方が良いといえます。何かを始めるときに、まわりの環境を見直して目的に合わせてちょっと工夫してみてもよいかもしれません。
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2025/11/14
幽霊の顔はなぜ怖い
幽霊をはじめてえがいたのは、江戸時代の円山応挙という絵師ではないかといわれています。円山応挙絵師は大津市の寺院と深いつながりがあり、大津絵から大きな影響を受けたといわれています。想像上の生き物である龍でさえ生き生きと表現し、幽霊もまるで本物を見たかのようにえがかれています。この幽霊の作品があまりにも印象的だったため、これをまねた絵が全国でたくさんえがかれるようになりました。「怖いなあ」となんとなく感じるこの作品を分析してみると、怖く感じる理由がわかってきます。
「分析する」とは、全体を部分に分けて、それぞれの部分について検討するということです。この「分析する」という手法は、フランスのデカルトという哲学者が広めたもので、科学の基礎となっている考え方です。
さて、円山応挙絵師が描いた幽霊の顔を分析すると、顔に2種類の表情がえがかれていることが分かります。顔の上半分だけを取り出して検討すると、目じりがつり上っていて、怒っているような表情をしています。今度は、顔の下半分だけを取り出して検討すると、口角が少し上がっていて、笑っているような表情をしています。つまりこの絵では、幽霊が怒りながら笑っているのです。この絵を見て「ゾクッ」と感じるのは、私たちは怒りと笑いという反対の表情を同時に表すことができないのに、「言われてみると…」程度の微妙なものですが、絵の幽霊が2種類の表情をあらわしているからなのです。
同じようなことが、ハロウィンの魔除けのカボチャにも当てはまります。カボチャの吊り上がった目やギザギザの歯は、攻撃の気持ちを表しています。その一方で、口角は上がっていて、親しみやすい笑顔を表わしています。このように、ハロウィンのカボチャは攻撃の意思と親しみの意思という2種類の表情をしています。つまり、私たち人間は攻撃と親しみという2種類の感情を表情にあらわすことができないので、カボチャが特別なものであることを印象づけているのです。
ところで、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「モナ・リザ」は、人類の宝物ともいわれ、世界で最も有名な芸術作品です。その表情は神秘的なほほえみといわれています。なぜそうなのかといえば、見る角度や光の当たり方によって、笑っているようにも真顔のようにも見えるので、鑑賞する方に様々な思いをいだかせるからです。
生徒の皆さんはもうお分かりだと思いますが、この「モナ・リザ」を分析すると、やはり2種類の表情が含まれているのです。顔の左半分は悲しげに見える表情をしていて、右半分はやさしく微笑んでいるように見える表情をしているというような分析がなされています。どちら側から絵を鑑賞するかによって、鑑賞する方に伝わる気持ちが変わるのは、このように2種類の表情が左右に振り分けられているからかもしれません。以上の表情の違いは、「言われてみると…」程度の微妙なものです。あからさまではなく、気づかれにくいことも作品の神秘さを深めています。
芸術的な作品や印象に残る作品には、上手にかくされたいろいろな仕掛けがあるのです。
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