校長室より

2026/09/11
日本最古のお寿司「滋賀県の鮒(フナ)ずし」のなぞ
生徒の皆さんは、どのお寿司が好きですか。マグロ、イカ、ハマチ…。お寿司は外国人の方にも大人気です。

さて、お寿司が日本で最初につくられたのは滋賀県です。それは「鮒(フナ)ずし」です。その歴史は長くて、奈良時代にまでさかのぼり、日本現存の最古のお寿司だといわれています。作り方は東南アジアから中国を経て伝来したとされ、伝統的な方法で作り続けられています。それではなぜ、日本最古のお寿司が滋賀県でつくられたのでしょうか。

「鮒ずし」は、発酵食品です。製法から考えると、お漬物(つけもの)としてもあつかわれていることもあります。つくり方は以下の通りです。
1.春先の新鮮なニゴロブナをていねいにした処理したものを3か月程度塩漬けにします。
2.汚れを洗い流して磨き、陰干しします。
3.冷ましたご飯に塩や酒などをなじませて、フナのエラや腹にしっかりつめます。
4.桶(おけ)の底にご飯を敷き、ご飯とフナを交互に隙間なく重ねていきます。一番上は厚いご飯で覆い密着させます。
5.半年から1年で食べごろになります。

 「鮒ずし」は発酵食品ですからチーズのような香りがします。しっかりとした酸味があり、かむほどに濃厚なうまみが口の中に広がります。何とも言えない独特なにおいがするのですが、お茶づけでいただいたときはとても食べやすくて美味しかったです。

 本校の東谷教頭先生の実家では「鮒ずし」をつくっておられ、よく手伝っていたというお話を聞きました。お話によると、お美味しいものをつくるために、とても手間がかかるし、大変だったということでした。自家製のお味噌の味がそれぞれの家庭で異なっていたのと同様に、「鮒ずし」を発酵させる乳酸菌が多種多様であることから、「鮒ずし」もまた百軒の家があれば百種類の味があるともいわれています。教頭先生がいわれるには、好みの味とそうでない味があり、奥が深いということでした。

 「鮒ずし」の材料として使われている二ゴロブナは、世界中で琵琶湖にしか生息していない魚です。つまり、二ゴロブナは日本の琵琶湖水系にのみ生息している固有種なのです。ニゴロブナが「鮒ずし」に使われるのは、うろこがはぎやすく、漬けると柔らかくなるためです。とくに、二ゴロブナの重要な特徴は、骨までやわらかくなるので骨を取り除く必要がなくなり、骨まで美味しく食べられるようになることです。この点が他のフナの種類とは大きく異なっているので、二ゴロブナは「鮒ずし」に欠かせない材料となっています。だからこそ、「鮒ずし」は他の地域で作ることができない滋賀県の特産物となっているのです。

ニゴロブナは春の繁殖期になると、産卵のために琵琶湖からヨシ帯や用水路を通って水田へとのぼってきます。<このことについては、6月29日の校長室よりの「里山(さとやま)のできごと」にまとめました。> 近年は農地における環境の変化や外来魚の影響で天然のニゴロブナなどの漁獲量が減少していて大きな問題となっていますが、古来より琵琶湖がフナの一大産地であることには間違いはありません。

 ところで、今年の長雨は近江米のコシヒカリという人気のある品種の収穫期と重なったので、稲刈りに苦労している農家が多いと思います。いったん雨が降ってしまうと、稲が乾くまで何日か待たなくてはならないからです。私の家では、稲刈りを晴天が続いた日の朝露が消える午前10時ころから始めることにしています。なぜなら、稲が湿っていると稲刈り機にからまってしまったり、もみの機械乾燥に時間がかかって品質が落ちてしまったりするからです。

滋賀県で収穫される近江米は、とても美味しいと全国的な人気があります。旅行先の旅館やホテルで、「近江米を使用しています」という表示を何度も見たことがあり、そのたびに嬉しく思いました。滋賀県産のお米が美味しい理由は、周囲が山に囲まれていて、たっぷりした量のミネラルを含んだ豊かな水が美味しいお米を育てているからです。そして、琵琶湖があるために昼夜の寒暖差が緩和され、稲作に適した温和な気候になっているためではないかといわれています。

 さて、「鮒ずし」のなぞに、生徒の皆さんはもう気づいたのではないでしょうか。かっては、二ゴロブナは春先に産卵のために用水路をうめつくすほど遡上していたので、春先に食べ切れないほど一気に手に入ったのだと考えられます。滋賀県は、大量の二ゴロブナが産卵のために用水路をうめつくすほどの「魚どころ?」であったのです。一方、お米は今も昔もとても貴重なものに違いありません。そのようなお米を山ほど使う「お漬物」なんて、誰もがつくろうとは思わないものです。つまり、お米を使ってつくる「鮒ずし」は、超高級食品であるともいえるのです。そのようなものが、琵琶湖周辺の多くの一般家庭でつくられ続けてきたのは、滋賀県が古くから「米どころ」であったからだと思います。「米どころ」とは、良質なお米を多く生産することで有名な土地のことです。

あり余るほどの量のお米と、大量に捕獲できる二ゴロブナがなくては、「鮒ずし」の生産はあり得なかったといえるのです。

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2026/09/03
日本の地域防災の象徴は大津市の「百間堤」
生徒の皆さんも社会の授業で扇状地(せんじょうち)について学習したと思います。私が扇状地を強く意識したのは、比良山地を調査したときのことでした。そのときのことを説明する前に、扇状地について少しだけ思い出してみたいと思います。

扇状地とは、山地を流れてきた川が平野へ流れ出る場所を頂点として、運ばれてきた土砂が扇を広げたように堆積してできた地形のことです。つまり、扇状地は、@山地から平野へ流れ出る部分<扇頂(せんちょう)>と、A運ばれてきた土砂が扇を広げたように堆積している部分<扇央(せんおう)>と、B扇状地の最も下流側の末端部分<扇端(せんたん)>)の3つの部分からできています。

@の「扇頂」では、急斜面の山の谷間から川がいっきに平野に流れ出ています。そのため、川の様子を観察すると、川が流れた形跡を示す何本かのくぼみを見つけることができます。もちろん、現在の川が流れているくぼみが一番深いのですが、過去の川が流れていた向きにくぼみが何本も残っていることが多いのです。このように、山の谷間から川がいっきに平野に流れ出す場所では、川の出口がいろいろな向きに変化してしまうのです。まるで、花壇の水やりをするときに水道のホースの向きを左右に動かしているように、川が左右に流れを変えているのです。このように、「扇頂」で川の流れの向きが変わることによって、川があっちへ流れたりこっちに流れたりしながら土砂を堆積させていき、扇状地ができたというわけです。

Aの「扇央」には、運ばれてきた土砂が堆積しています。川はちょっとでも低い場所を流れます。そのため、ある場所で土砂が堆積すると、そこが高くなってしまうので、違う場所へ向かって川が流れるようになります。このようにして、「扇央」に、まんべんなく土砂が堆積したというわけです。この土砂は、粒が大きくて水はけが良いので、雨が降ったらすぐにしみこんでしまい、大部分が地下水<伏流水(ふくりゅうすい)>になってしまいます。場合によっては、川の水が全部しみこんでしまい、扇状地の途中で枯れ川となってしまうこともあるのです。

Bの「扇端」では、これまで扇状地の地下を流れていた伏流水が、湧き水となって噴出します。枯れていたはずの川が再び現れるのもこの場所です。つまり、扇状地の末端部分の扇形の円弧の部分は、豊富な水に恵まれている場所というわけです。大津市の北部の集落が、この「扇端」をなぞるように分布しているのは、昔の人が水の恵みを求めてそこに家を建てたからなのです。

さて最近、線状降水帯(せんじょうこうすいたい)や大雨特別警報という言葉をよく耳にします。千葉県を中心に発生した8月の集中豪雨「千葉豪雨」についてテレビや新聞で見聞きした人が多いと思います。この豪雨では、千葉県で1年間に降る雨の3分の1の量の雨がわずか1日で降ったそうです。このとき、川の水があふれだしたことが大きな被害につながったといわれています。

ところで、生徒の皆さんは、「百闥轣iひゃっけんづつみ)」という建造物の名前を聞いたことがありますか。

大津市の名所ですので、一度は訪れてみてはいかがでしょうか。とりわけ、防災の専門家なら「百闥轣vのことを誰でも知っています。それほどまでに、全国的に有名な建造物なのです。

「百間堤」は、江戸時代末期につくられた巨大な石積みの堤防です。長さ約180m、幅18m、高さ最大9mにおよび、1mを超える巨大な岩を何層も美しく積み上げた堤防です。私が「百間堤」を現地で見た感想は、「すごすぎる」でした。堤の上に登ったり、堤の上を走ってみたりして、その巨大さを実感したのです。

この「百間堤」の最も大きな役割は、扇状地の「扇頂」の川の流れを固定することです。川の流れを固定して、下流側の土地を守ったのです。川が決まった方向に流れるようによく考えられた構造をしているのが驚きです。しかも、村人全体が奉仕して、約5〜6年もの歳月をかけて協力して築き上げたものだというので、文化的な価値も高いとされています。比良山地から流れる四ツ子川の度重なる氾濫を防ぐため、血のにじむような村人たちの治水事業の結晶であることが、地域防災の手本となるものとして、非常に高く評価されているということです。

「百間堤」は、150年以上を経た現在でもくずれることなく、当時の美しい石積みの姿をとどめています。しかも、水田や生活用水のための石づくりの水路など、機能性と美しさを兼ね備えています。

この「百間堤」が、当時の人々の防災への思いをのせて、大雨による川の氾濫から、比良山地の扇状地で暮らす大津市民の生活をこれからも守
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